「超高いっ。めちゃくちゃ高いっ。押すなよ。まじで押すなよ。」
那覇市のある歩道橋の上、午前二時。
誰にも頼まれていないのに、欄干を跨いだ34歳が、そう叫んでいる。
「そんな高くないから大丈夫だよ。グッさん、ジムで鍛えてるし降りれるって。」
ヨナさんが、吸いかけのタバコを指で小突きながら、笑顔で返事をする。
「ヨナさん、どーする?そろそろ帰ります?グッさんは?まだ帰らないっすよね?」
早く帰りたい僕が、時計を見ながらそう二人に聞いてみる。
「も~帰るよ~。つ~か俺も、そろそろ帰ろうと思ってたし。」
欄干を降りて、スラックスを軽く叩きながら、
グッさんが、いつものように答え返す。
「・・・かえろっかぁ~。」
そう答えたのは、ヨナさん。
いつも、ほんわか、ゆったりなヨナさん。
ここ最近は、いっつも半ズボンで、それがよく似合っている。
カリスマのグッチが、よく褒めているので、今年は冬も半ズボンだろう。
今日は、そんなヨナさんからの召集。
こんなに三名で飲んでて、ヨナさんからの召集は初めて。
「んで、ヨナッチ
どーしたって?」
仕事を終えて、少し遅れてお店に現れたグッチは、
ヨナさんがトイレに行くのを見届けると、チャンスとばかりに僕に尋ねた。
「いやぁ~。何も言ってこないし、いつも通りっすね。」
「いやだけど、めずらしいだろ。アイツから集合かかるって。。」
「俺も、そう思ってたんすけど。。ねぇ。。」
日付も変わって一時間。
閉店が近づいて、客足もだいぶ引いてきた。
「そろそろ、出ますか~。」
と、僕。
「カルピス飲みて~しな。」
と、グッチ。
帰り道、
冒頭の歩道橋を降りて、しばらく歩いたころで、ヨナさんが、
「ねぇ~俺、お店の名前変えたらダメ?」
「ヨナヘアーをっすか?」
と、僕。
「
ネコヘアー。」
と、ヨナさん。
「俺好きだけど、ボブヘアー。」
と、グッチ。
「
ネコヘアー。」
と、ヨナさん。
「・・・・・・・・。」
と、ヨナさん。
8月3日の鬼さん